ドラマ感想

ドラマ感想「アンチヒーロー」〜真実はアンチヒーローをもってしても

今回は珍しくドラマの感想です。「アンチヒーロー」。前期のTBSドラマの覇権だったのではないでしょうか? ダークな雰囲気ながら、演出がとても良かったと思います。

目次

  1. とにかく野村萬斎が最高
  2. アンチヒーローになりたいか?
  3. 真実を明らかにするのは難しい

とにかく野村萬斎が最高

相変わらずおっさんが熱いドラマ。日曜劇場って、町工場と野球とおっさんが本当に大好きですよねえ。特に日曜劇場あるあるで、シリアスなシーンでオッサンがチューする五秒前になる。って、そんなあるある日曜劇場しかないだろ! 誰得だよ、私得だよ。本当、悪いクセです、もっとやれ。(BL趣味はありません)

とても、いい笑顔。

まあ、真面目な話、実は私個人は演出としてとてもわかりやすくてよいと思ってます。漫画でもありますよね、コマを挟んで二人がバチバチに対峙してる場面。あれをドラマでやったのが今回も含めてのそれなんだと思います。

私はここまで、いわば歌舞伎的なビジュアル演出はしませんが、漫画的演出をドラマに上手く落とし込んだことは好きです。最近やりすぎな気もするので飽きられる心配を勝手にしていますが、それまではこの演出が続きそうですね。

アンチヒーローになりたいか?

さて、このドラマの主題について。赤嶺くんの変貌がすべてを語っているような気もしますが……一応。

「不条理と戦うために“アンチヒーロー”が必要なのかもしれません。 だから今度は僕があなたを無罪にしてさしあげます」

見事に明墨イズムを受け継いで立派になっちゃって、感慨深かったですねえ。「悪い顔しながら言っちゃっていいのか?」という素朴な疑問は頭を離れません。

最初は生真面目だったのに。

それはそれとして、これはある一面では真実を突いています。元々犯罪が不条理なものである以上、正義を貫くには、ときにグレー……というかブラックな手段を取る必要もあるわけです。なぜなら、そもそも依頼人が不条理なことで追い詰められているかもしれないから。彼のセリフはそれを端的に表しています。

しかし、決してこれが手放しで賞賛されているわけではありません。それは明墨と伊達原とのやりとりでも明確に示されています。「自分の家族が殺されそうになった時に、相手を殺すことができるか?」という問いのあたりですね。最初、明墨はうまく答えられなかったようですが、最終話では「殺します」と即答していました。

大事なのはここからで、その後に「相手を殺したあと、自分も地獄に落ちる」という趣旨のことを告げていました。つまり、相手を殺してしまった以上は、自分も血の臭いから逃れることができないのだということでしょう。

この考え方はメインの登場人物に多く当てはまるところがあります。伊達原然り、瀬古判事然り、明墨自身然り。理不尽な現実に負けないためにダーティーな手段をとってしまった以上、自分も地獄に落ちることを覚悟しなければならないのですね。相手が先に理不尽なことを仕掛けてきたからといって、自分も理不尽な手段を取れば、それはいずれ自分に返ってきてしまう。「アンチヒーロー」はある意味必要なのかもしれませんが、全員が全員この手段を取るべきでもない、ということはストーリーの流れから自然に理解できるのではないかなと思います。

彼女も天井を突き破るために。

ここら辺「図書館戦争」シリーズでも似たような指摘はされていましたね。郁も正義のために戦っているわけですが、一方で銃で相手を撃っている事実は変わらない。手を血に染めてでも、自分が守らなければならない。こういう覚悟がアンチヒーローには間違いなく必要です。一般人にはなかなかつらい。

私は手を血で染める覚悟はありませんので、アンチヒーローをかっこいいとは思っても、自分自身がなろうとは思いません。地獄に落ちたくないので。すっごい痛そうじゃないですか。

真実を明らかにするのは難しい

すごくチープな見出しですが、このドラマを見て感じたもう一つのことです。

物語に張り巡らせた伏線はすべて綺麗に回収したと思いますが、とうとう志水さんの事件の真犯人はわからずじまいでした。そもそも最初の事件からして、目撃者の情報が推測による決めつけとされてしまいましたが、実際はそれが真実だった可能性が高いことが後から示されました。しかし、目撃者含めた事件の一連の流れも明らかになっていない部分もあります。

「日本の司法は起訴されたら有罪率99%」へのアンチテーマで、志水さんの冤罪が提起されたのだと思います。それだけを見てしまうと「真実が明らかになってよかったね」で終わってしまいそうですが、ここは気をつけたい。

先ほどは手段の話をしましたが、そんな汚い手段を使ったとしても、完璧に真実を明らかにすることが難しい場合があるということです。それどころか真実と逆の方向に誘導される場合もあるわけで。

「起訴されたら有罪率99%」は警察の優秀さを示すと同時に皮肉っている面もあり、それは真実を明らかにすることが難しいことを示すことでもあります。トリプルミーニングとして、最初にこの言葉を持ってきたのはよかったのではないかな、と思います。

まあ、色々感想書いてきたんですが、私が久しぶりに実写ドラマの感想を書く気になったのも、ひとえに野村萬斎の演技を見たかったからです。愉快でした、本当。