映画感想

映画感想「かがみの孤城」~物足りない!でも、切り捨てるには惜しい

今回は映画「かがみの孤城」の感想です。面白いかつまらないか、断ずることはできませんが、作画の綺麗さはあるもののアニメーションとしては弱く、謎解き風のストーリーは肩透かしに終わってしまいます。それでも、物語の中で描かれる不登校や人間関係の描写には考えるところが大いにあると感じました。

それでは、今回の心への旅に出かけましょう!

目次

  1. 作画が綺麗≠アニメーションの魅力
  2. 謎解き、と思わせておいての肩透かし
  3. 面白いのは、不登校との向き合い方と人との繋がり
  4. アニメーションとしては物足りないけれど、感じるものはある

作画が綺麗≠アニメーションの魅力

以前から薄々気づいていたのですが、作画が綺麗でもアニメーションが魅力的はないことがあるんですよね。残念ながら、本作がまさにそれだと感じてしまいました。

特に目についたのは人物の動きの無さ。この作品は後述の理由から、登場人物たちにどれだけ魅力があるかがキモだと思います。なので、彼らのアニメーションも相応に力を入れて欲しい部分です。でも、「かがみの孤城」はその辺がとにかく薄かった。お茶を飲んだり、ケーキを食べたりするシーンがのっぺりとしているというか、記号的でした。

逆にクライマックスのシーンはものすごくぬるぬる動いて、気合が入っていることが感じられました。しかし、それが私には逆に不自然に思えてしまったんですよ。唐突すぎたんです、あまりにも。なんだろうなあ、今まですごく静かだったクラスメイトが、文化祭の時だけすごく気合出してバリバリやり始めると逆に引いちゃう的な。(なんだこの喩え)

ここなんですよ

でも、しょうがないんですよ。我々、宮崎駿を始めとしたバケモノ級の才能を持った作品を見てしまっていますから。特にジブリは食事シーンを顕著に重視していて、キャラクターがよく動く。手付きが動きが大振りなタイプもいれば、あまり動かないタイプもいるけれど、とにかく何かしらの動きで、そのキャラクターを「生かす」んですよ。

キャラクターは細部に宿る、と私は思うのですが、本作はその細部が弱かったな、と思ってしまうのでした。

謎解き、と思わせておいての肩透かし

この物語、ストーリーの組み方にも難があると感じました。「願い事を叶えるために鍵を探すよう伝えられ、集められた7人のうち一人しか願い事を叶えられない」という冒頭が特に悪い。

いかにもバトルロワイヤルっぽい導入だと思うんですよ。そして、色々なルールも与えられるし、孤城も海の上にぽっかりあるという不思議空間。そういう謎も散りばめているので、謎解きも期待してしまうわけですよ。

ワクワクする冒頭ではありますが。。。

期待したんですが、結局バトルロワイヤルはなかったし、謎解きもかなり薄かったです。唯一、7人が同じ日に会おうとして会えなかったことが大きな謎として提示されますが、それもオオカミ様のヒントの提示も早く、謎解きのエクスタシーも薄め。むしろ、スバルがゲームの存在に疎いというどころではなく、一度も見たことがない反応を示していたので、私はすぐにわかってしまいました。

そして、最大の謎と思われた鍵は、他の6人が狼に食べられていないと見つからないという始末。そりゃあ、探そうとしても見つかるわけないよなあ。クライマックスで唐突に判明するので、余計に肩透かし感がすごかったです。

おそらく映画化するにあたって時間的な制約があったのだろうと推測されます。が、それならいっそのこと、冒頭の見せ方を大きく変えても良かったのではないかと思います。あんまり細かいルールを喋らないとか、変えるとか。なぜなら、この作品の本質的な面白さは謎解きではないからです。

面白いのは、不登校との向き合い方と人との繋がり

やっぱり、この映画のいいところは不登校との向き合い方だったり、人間関係の描写ではないでしょうか。わりかし平坦に描きつつも、リアリティがあるように思いました。

特にウレシノの扱い。7人全員が他のメンバーを同じく不登校であることを薄々感じつつも、その中でウレシノをみんな小馬鹿にしている感じがたまらないですよね。皮肉にも、学校でいじめている人たちの側に、自分自身が足突っ込んじゃっていますね。こうやって7人の間に、微妙な力関係が出てくるというのは、人間が集まったときのやむを得ない性質だと思います。

しかし、ウレシノが偉いのは、急にキレて、学校行って、それでボロボロになって、でもそれを隠そうともせずにまた帰ってくるところ。キレるところくらいまでは、まあ、みっともない人間にありがちな……というと怒られそうですが、見栄張っているだけなんだろうな、なんです。しかし、ちゃんと戻ってくるところは偉い。そこで鏡の世界からも姿を消さなかったのは、彼が現実に向き合う成長のきっかけになったのではないかな、と思います。

そして、彼らが再び現実に向き合う決定打になったのは、学校以外の人の繋がりだと思いました。

こころの場合、母親が不登校のことを理解しないのかなあ、と最初思ったりもしました。しかし、中盤でこころからいじめを受けたことを聞いてちゃんと彼女に向き合ったことで、こころが外の世界との繋がりを完全に失わずに済んだのだと思います。

その人たち以外もふくめ、現実に向き合いきっかけを作ったのが喜多嶋先生で、なんで彼女がそこまでするのかなと思ったのですが、最後まで観たら納得でした。(ネタバレはここでは避けます。)

この映画を観て改めて思いました、やっぱりどこかで誰かと繋がっていることはとても大事だなと。学校はその大きなチャンスではあるけれど、子どもの人生はそこだけではないのですよね。この映画の時代背景ではスマートフォンがありませんでしたが、今はネットがあるじゃないですか。SNSに悪い一面があるのも事実ですが、一方で繋がりを作ることもできる。

実際、彼らはこの繋がりの中から、再び現実に向き合う勇気を取り戻すことができた。もちろん、この物語はフィクションですが、自分たちの繋がりがひと所にしかないという思い込みから立ち返る良いきっかけにはなると思うんですよね。

その中でも彼はかなり特殊な立ち位置にいます。

学校にしか、会社にしか居場所が無い、なんてことはない。つらいときには、そこではない場所へ行くことは大いにアリだと思います。人生は思ったよりも自由ですから。不登校にはそうやって向き合うこともできるでしょう。

アニメーションとしては物足りないけれど、感じるものはある

以上、「かがみの孤城」の感想でした。冒頭でも述べた通り、アニメーションとしては物足りない部分が多いです。でも、不登校ということには感じるものがありました。惜しい、惜しいよぉ……。