小説感想

小説感想「ナポレオン」〜物語や神話ではない、あなたは夢

今回は小説「ナポレオン」の感想です。小説としての完成度はやや平坦な部分も感じられましたが、そんなことを吹き飛ばすくらい、ナポレオン自身の人生が壮絶でドラマチックで魅力的、結果として非常に楽しめた一冊でした。

それでは、今回の心への旅に出かけましょう!

目次

  1. ナポレオンを語る一言
  2. 意外な出発点とその野望
  3. 独裁者としての宿命
  4. ナポレオンの働きぶり
  5. まとめ:物語や神話ではない、あなたは夢

ナポレオンを語る一言

長い物語を読んで、結局「ナポレオンとはなんだったのか?」と思うのですが、なんと最後に綺麗にまとめた一言がありました。

なんとなれば、あなたは夢です。ときに皆の救いであり、あるいは皆の希望です。物語や神話でなく、実際に生きた人間のなかにあっては、あなたのような英雄は本当に少ないのです。

19世紀から現在の21世紀になっても、確かに彼のような人物は出てきていないですし、これから長期間にわたっても出てこないでしょう。西ヨーロッパをほとんど統一するなんて、今の世界からはとても考えられません。

一つ、テクノロジーの観点から言うなら、電気が本格的に普及する前だったのは大きな要因の一つではないかと思います。特に通信技術の点。ナポレオンは相手の裏をかく戦法を非常に得意としましたが、それは情報伝達が今ほど早くなかったからこそできたものだと思います。現在では一瞬で状況把握できる世界であり、一人の天才がちょっと良い戦術を思いついただけではどうにもならない世界。そういう意味でもナポレオンが当面は登場しないだろう、と思います。

意外な出発点とその野望

さて、そんなビッグなことを成し遂げたナポレオンですが、驚いたのは、彼が最初はコルシカ島の独立を目指す、比較的小規模な野望しか持っていなかったことです。歴史の教科書ではフランス革命後に突如登場し、短期間で去っていった印象が強い彼ですが、まさかパリ出身ではなく、コルシカ島を故郷としていたとは意外でした。そして、その故郷を追われるという経験が、彼の心にどれだけの影響を与えたのか、興味深いところです。

自分はフランス軍の将校なのだと、自覚もあれば、自負さえある。それでも心はコルス人のままなのだ。

だからこそ、彼は自分が生粋なフランス人とは思えず、かといって故郷を追われてしまって、それ以降ほとんど帰っていないことからも、コルス人という自覚もあえて薄めてしまったのだと思います。では、自分は何者なのか? その答えを探していくうち、フランスをヨーロッパ全体まで広めようとする野望を抱くに至ったのだと思う。

独裁者としての宿命

一度権力を手にしてしまったナポレオンは、次第にその権力を手放せなくなっていきました。このような姿は、歴史上の多くの独裁者に共通するものです。

ナポレオンも例外ではなく、権力を握れば握るほど、敵が増え、命を狙われるという状況に直面し、より強固な権力を求めざるを得なくなります。この点は、現代でも独裁政権が抱える課題と通じる部分があり、非常に示唆深いと感じました。

やはり軽い。第一執政など軽い。

特に興味深いのは、ナポレオンの台頭が、フランスで一度革命が起きた後だったということです。一度は民主的な政治を経験したフランス国民が、結局のところ強い権力者を求めていたということが、ナポレオンの独裁への道を開いたのではないかと感じます。これは現代においても、権力と国民の関係について考えさせられる点です。

ナポレオンの働きぶり

小説の中で描かれているナポレオンは、とにかく働きまくる人物として描かれていました。彼は部下に仕事を任せることなく、自らが率先してフランスのために働き続ける姿が強調されています。

フランスを救えるのは、俺しかいない。俺がいない間に、こうなったのだ。俺がいなければ、駄目だ。

もちろん、自分の保身という要素も大いにあったでしょうが、それ以上に彼の強い使命感が、彼を駆り立てていたのではないかと思います。

ナポレオンがフランスにとっていかに大切な存在であったかは、彼が一度失脚した後、そして死後21年経って彼の棺がフランスに戻った際に、フランス国民が彼を熱烈に歓迎したことからもわかります。ヨーロッパの他の国々にとっては悪夢のような存在であったかもしれませんが、フランスにとっては栄光をもたらした英雄として、今も語り継がれているのです。

まとめ:物語や神話ではない、あなたは夢

ヨーロッパの他の国からすれば悪夢のような時期だったかもしれません。しかし、フランス国民にとっては栄光をもたらしてくれた英雄だと、やはりそう思うのではないのでしょうか。いろいろ述べてきましたが、どちらにせよ、ここで最初の引用に戻ってくるわけですよ。

なんとなれば、あなたは夢です。ときに皆の救いであり、あるいは皆の希望です。物語や神話でなく、実際に生きた人間のなかにあっては、あなたのような英雄は本当に少ないのです。

すごく面白かったし、人が権力を得ていくにあたって、どういうことに落とし穴があるか。すごく学びにもなった一冊でした。