今回は、小説「図書館危機」の感想です。シリーズも三作目。前作ではサブキャラクターの掘り下げがメインでしたが、今作は郁にとっての最大の試練と自由がテーマだと感じました。
母親との和解
母親との和解は前作では完全に描かれていませんでした。父親が味方になった事は堂上視点からわかっていましたけれど、母親との確執がここまであるとは正直思いませんでした。
ただ、やはり母親と和解することはとても重要だと思います。郁の解決しなければならないポイントがこれで解消されましたね!
堂上を除いて。。。
それにしても、母親と子どもの関係はいろいろな物語で描かれますが、ここでも母親が自分の理想像を娘に押し付ける問題が出ていましたね。特に今回はその理由が明示されたことでより確執が深かったように思います。
ただ、逆にいうと、理由がハッキリしているからこそ、解消する目処も見えるという点で救いも感じられました。これは本シリーズがエンタメに特化しているからだと思います。
実際、世の中には理由もなくエゴを押し付ける親もいて、まさに理不尽というほかありません。 決してこの作品にリアリティがないといいたいわけではなく、郁にとっては理由がハッキリわかったからこそ、子どもの立場から親を理解できるチャンスになったことは、本当にラッキーだなと喜んでいます。
郁の成長と戦闘の重み
さて、もう一つの試練とは、実戦経験です。柴崎が自分たちの手は血まみれだ的なことを言っていましたが、全二作までで郁も読者である私たちもそれを自覚できるシーンがあまりなかったと思います。手塚が戦ったシーンはありますが、あれも生々しい戦闘描写は少なかったですし。それゆえ、さも図書隊が正義であるかのように私も感じていました。
しかし、今作では戦闘で人を傷つけたり殺したりする可能性があることをはっきりと描写されており、図書隊が決して正義の味方ではないんだというところをまざまざと見せつけられました。
郁にとってもそれは同じことで、自分たちが正義だと信じていたことが、実は大きく違っていたというのが今回の物語の肝だと思っています。
郁にとって実際に人を撃つことがどれだけ重大なことか、その重みが読者にも伝わってきます。このシーンは郁の挫折と、同時に手を血に染めても彼女が背負うべきものを自覚する、大きな成長のポイントとなったと感じました。
自由を守るための戦い
さて、そんな彼女を含め、図書隊は何を守っているのか? それはもう第一作目の冒頭から分かるように「表現の自由」です。
わかっているよ!と思うかもしれませんが、自由のためになら命をなげうつ覚悟がありますか? 最後の玄田の行動は、まさに自由を守るために命をかけた象徴的なものだと考えます。命は非常に大事です。命がなければ自由もへったくれもあったものではありません。しかし、一方で命があっても自由がない人生は? 出られぬ牢屋で過ごす人生にどれほどの価値があるのでしょうか。
この点に関しては、ONE PIECEのルフィとも共通するものがあると思います。ルフィも何より自由であることに強い信念を抱いています。夢の為なら死んでも構わないと思う。 もちろん彼も命を大事にしていますが、自由を守るためなら命をなげうっても構わないと思うタイプでしょう。
玄田とルフィ、ビジュアルは完全に正反対ですが、どちらも体を張ってでも守りたいものがあるという強い信念を持っているキャラクターです。私は二人とも好きだなあ。
玄田が次作で戻ってくることを期待して待っています。(っていうか絶対戻ってくるよね)
改めて『図書館危機』は、郁自身に突きつけられた最大の試練、そして自由を守るための戦いといったテーマがうまく調和した作品だと思います。あと一作、彼女たちの戦いの行く末を見守りましょう。