今回はSF作品「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の感想。
SF作品としてももちろん面白かったです。ですが、私は物語の中に出てくるストラットという人物に惹かれました。プロジェクトリーダーとして極めて優秀であるだけでなく、絶妙なバランス感覚もあるというぶっ飛んだ人物像を語っていきます。
それでは、今回の心への旅に出かけましょう!
目次
- あらすじ
- SF自体の面白さより、ストラットという人間に惹かれた
- 目的に向けて一切ブレないが、相手への配慮もある絶妙なバランス感覚
- 人間らしいところがある、ように見えて全然そんなことなかった
- 彼女の根本は歴史にあり
- 今回の結論
あらすじ
未知の生物によって太陽に異常が発生。中学で科学教師を務める男、ライラット・グレースは過去の研究成果が理由で、ストラットという女性によって人類を救うためのプロジェクトに強制加入させられる。ミッションは宇宙に行き、異常の原因と解決する方法を見つけること。
様々な事故が重なり孤独なミッションとなってしまった彼は、別の恒星系の異星人「ロッキー」と出会う。最初は言葉さえわからなかったが、やがて意思疎通ができるようになり、ついに太陽に異常を起こす未知の生物に対処する術を見つける。ロッキーとグレースはその手段をそれぞれの星に持ち帰ろうとしたが、最後の最後に大きな過ちに気づき……。
SF自体の面白さより、ストラットという人間に惹かれた
さて、この本はもちろんSF作品としてとても面白いものでした。宇宙の話も然り、量子力学の世界も然り、気候変動も然り。現在の科学の最先端の話を盛り込みながら、異星人というぶっ飛びファンタジーを突っ込んでくるところはユニークです。
しかし、それはそれとして、今回私が語りたいのはストラットです。
とにかくストラットが好きになってしまいました。彼女を一言で言い表すと、あくまでストイック。そして、その義務感ゆえに自分が地獄に落ちることを厭わない。そんな人物です。
「泣くのはあと! ミッション第一!」
事故で仲間を失った直後の一言がこれですよ。やばいね。
そんな彼女に対して、グレースが思った言葉がこれ。
いやいや、地獄はあなたのところへもどっていくんだよ、ストラット。
いやあ、素晴らしい。最初からストラットに地獄があると断言してしまう。
目的に向けて一切ブレないが、相手への配慮もある絶妙なバランス感覚
ストラットはプロジェクトリーダーとして飛び抜けて優秀です。常に人類存続を最優先事項として、そこからブレることがありません。必要なことがあればきちんと話を聞くし、専門家ほどではないが、適切な理解に至って次の行動を決められる。そんな人物です。
この「きちんと話を聞く」というのが一番難しい。相手の感情を無視するわけではない。なぜならそれでは相手から必要な情報が引き出せないから。寄り添うようにして必要な情報を得て、そして行動する段階では感情を無視して人類存続の決断をする。
権力をかさに着て威張ることもありません。プロジェクトを進めるために必要ならば治外法権クラスの指示を出します。かと言って、各国のルールをガン無視するわけではなく、プロジェクトに悪影響が出ない範囲では調整する気もある。そして、このプロジェクトが終わったら、自分がどんな扱いを受けるか、きちんと理解しています。
そういうバランス感覚も含めて飛び抜けて優秀なリーダーだと思います。
人間らしいところがある、ように見えて全然そんなことなかった
しかし、そんな彼女に人間らしいところなんてあるのでしょうか?
一つはこのシーンですね。
かたわらにはオランダのジンのボトルとロックグラス。彼女が飲んでいるのを見るのは初めてだった。
文字通り、酒を飲むのはこの中盤の描写しかありません。しかも、酒を飲みながらプロジェクトのことを考えているという。
そして、終盤のこれ。
彼女がぼくのところにやってきたのだ。バスローブにブーツといういでたちだった。
これもプライベートの姿が垣間見えつつ、トランシーバーで連絡をとっているという状況です……いや、結局全然ろくなプライベートのシーンなんてないわけですね。
彼女の根本は歴史にあり
そんな彼女の唯一の根本とも言えるのが、このセリフでした。
「歴史よ。歴史専攻だったの」
今の彼女とは打って変わって、若い頃は何をするべきかまったく考えがなかったといいます。そんな彼女が歴史を専攻して、人類がほとんどの期間食糧危機に悩まされていたことを理解した。だからこのプロジェクトでも冷徹な判断を下せるようになったのではないか。筋は通っています。
それにしたって、あまりに強い意志を持って、冷静に判断を下せるあたり、やはり普通の人物とは到底思えません。リーダーとしてはとてつもなく優秀でしょうが、私個人が人間として付き合いたいかというと、まあ……嫌ですね。面白い会話できなさそうだし。
おそらく彼女の存在があってこそ、グレースがより人間らしく、弱いところは弱く、それでも勇気を振り絞って前向きに進んでいけることの魅力を感じるのではないかと思います。
結論見出し:すっごい好き。飲みには行かない。
いや、でもやっぱり私はストラットが好きなんですよね。フィクションにおいて、これくらいぶっ飛んだ人物ってやっぱり好き。そして何より筋が通っているのが素敵なんですよ。彼女の判断はブレない。しかし相手への配慮も忘れない。忘れないけれど、やっぱり判断はブレない。針の穴を通すような絶妙なバランス感覚がある人物像に私は惹かれました。
上司にするならストラットのような人物がいいですね。絶対飲みに行かないけど。