小説感想

小説感想「図書館戦争」〜はっきりしたキャラに支えられた月9でGO!な味わい

今回は小説「図書館戦争」の感想です。作品名から想起されるイメージに反して、はっきりしたキャラに支えられて、まるで月9ドラマのようにとっつきやすい小説でした。

それでは、今回の心への旅に出かけましょう!

目次

  1. 「戦争」と銘打ちながらもとっつきやすい良作
  2. 物語の屋台骨、キャラ立ちする登場人物たち
  3. 図書の規制の果てに
  4. 今回の結論

「戦争」と銘打ちながらもとっつきやすい良作

最初から軽い語り口だったので、「もしかしてこの小説ってサクッと読めるのではないか?」という印象が真っ先に来ました。何しろこの前に読んだのが英語の本なので、もはや言語レベルからとっつきやすさが違いましたね。まあ、それは私個人の話なんでどうでもいいですが、実際に読んでみると想像以上に読みやすいのなんの。

私は有川浩氏の作品を初めて読んだので、この方の他作品の傾向は分かりません。ただ、この作品については後書きを読んで、とっつきやすさの理由に納得しました。作者自身が月9ドラマのようなイメージで企画を立てたと。なるほど、それは分かりやすい文体と軽めの語り口になりますね。

どうして月9ドラマにしようとしたのかまでは語られていませんが、私の第1作目のトータルの印象としては「本当に甘酸っぱい青春物語」です。「図書館で戦争」というコンセプトからは想像もできないような雰囲気によく持っていけたなと。「戦争」という言葉を使うからには少なからず陰鬱な雰囲気が漂うものと勝手に想像していました。実際、ある程度軍隊らしい設定も登場するし、政治の駆け引きやら、言論の自由という背景設定もあります。しかし、登場人物たちのきっぱりとしたキャラクター造形によってしっかりエンタメしていたのが素晴らしいと思います。

物語の屋台骨、キャラ立ちする登場人物たち

さて、先にも書きましたが、この物語の面白さの大部分はキャラクターに支えられていると言って差し支えないでしょう。郁、堂上をはじめとして、それぞれのキャラ立ちがはっきりしていて、かつ主要人物はあまり多くないので覚えるのにも苦労しません。第2作目で各キャラクターのキャッチフレーズを一言でまとめているあたり、キャラ造形を明確に意識していることが窺い知れます。

もちろん、登場人物たちにそれぞれ変化はあり、キャッチフレーズそのままで終わることもありません。手塚はわかりやすいですね。プライドの高い超優等生だったけれど、郁との付き合いを通じて柔軟性を獲得しました。それでも根っこの部分は良い意味であまり変わっておらず、キャラクターとしての一貫性は保たれています。

私が主要人物の中で特に好きなのは、やはり堂上ですね。あとがきの後の短編でーーこの短編、めちゃくちゃ恥ずかしいタイトルだったりするのですがーー彼が自身の夢をとても大事に抱えていることがわかります。若い頃の自分のような真似は二度としまいと誓っていながら、郁を見て何かを期待してしまうあたり、彼自身のまっすぐなところは何も変わっていないことが窺い知れます。当時の自分が力不足で、ある程度現実との折り合いをつけながらも、夢を諦めたわけではないのだろうと。端的に言うと、偉い!と言う感じです。

それから柴崎も結構好きですね。憎まれ口を叩きながらもうまいこと情報を仕入れて味方に有益な情報を伝える、まさに女スパイ。しかし、彼女は彼女なりの正義を持ってそれを行っているので好感が持てるんですよ。ここもやっぱり彼女の偉いところだなと思います。

図書の規制の果てに

さて、そんな彼らが守ろうとする図書の自由。それは図書を規制する考え方へのカウンターとして成り立っています。実際、作者も図書の自由側に全面的に立ちつつ、刊行当時は馬鹿馬鹿しい設定だと考えていたでしょう。

しかし、現在では規制の考え方がある程度強まってきていると私は個人的に感じています。ゲームの規制もそうですし、街のポスターやらなんやら。フェミニストだったり人種差別問題だったり。それは「差別は良くない」「教育に良くない」という価値観に基づいていて、その価値観自体には私は反対ではありませんが、特に過去の作品を狩る姿勢は非常によろしくないと思います。

作中で悠馬が危惧していた通り、子どもには自主性があり、彼ら自身で物事を判断する力があります。また、現在の価値基準で過去の価値基準を断じてはならないと私は考えています。なぜなら、現在の価値基準は過去の価値基準を踏まえて成立してきたものだからです。仮に現在の価値基準が正しく、過去の価値基準が誤ったものであるなら、それは過去に誤った反省という経緯があるからそこです。その経緯を抹消してしまったら、万一過去の価値観が再燃したときにどうやって正せばいいのか? 歴史が繰り返されるだけになるかもしれません。

あるいは犯罪関連もそう。現実と虚構の区別がついていて、現実にそれをやってはいけないという感覚の醸成は必要です。残念ながら、どんなに社会を「綺麗」にしようとも、人類70億人いる限り、「小説よりも奇なるつらい現実」の事件は起きます。人の心から悪意が消えることもありません。フィクションや過去の世界で人の悪意や残酷さに触れることは、つらい現実に相対するにあたって必要な準備だと思います。

この小説を読んで思い出したのは「1984年」でした。あれはまさに検閲の極みの世界であり、それこそ過去の制作物すべてに影響を及ぼした世界を描いていました。あの世界は極限まで振り切っていますが、何かを規制するということは、特に言論に関して言えば、ああいう息苦しい世界を生み出すことになるわけです。

私はそういう息苦しさには耐えられないタイプなので。多少毒があろうとも、やはり無闇な規制には賛同できませんね。

今回の結論

と、まあ、図書の規制という、非常にわかりやすいテーマを持ってきながらも、図書隊が完全な正義でもありません。

私が感銘を受けたのはそのテーマではなく、やっぱりキャラクターたちの魅力でした。特に堂上。昔の自分を切り捨てた、と本人は言いますが、それでも捨てきれぬ熱いハートの持ち主だという矛盾が、とても人間らしくて好きなんですよねえ。

人間、矛盾を抱えてこそ。私はそんな信念を持っていますが、彼はそれを地で行くキャラクターで、ほんと好き(柴崎風)

このシリーズ、かなり続いていますので、今後の彼の変化も見守っていきたいと思います。