ひとりごと

スパルタンレース ~覚悟を決めた人の強さ

突然ですが、皆さんは「スパルタンレース」というのを聞いたことがありますか?
私は最近までまったく聞いたことがなかったのですが、
意識が高い人たちの間では結構有名みたいです。
うちの職場の部長も知っていました。

それがなに、っていうとですね。
参加しました、この私。

そんな私にびっくりする人がいるのを感じつつ、
今回はそのレースから感じたことを書いていきます。

そもそも、です。
さっき「意識が高い人たちの間では有名」と書きました。
私、意識高くなんてありません。

できれば一日中寝転がりながらゲームしたいし、
映画とか本も寝っ転がって楽しみたい。
ご飯は誰かがおいしいものを作ってほしくて、
こういう文章を書くことも、
誰かが私の脳波を感じ取って
やってくれないかなー、とすら思います。

とにかく、私はめちゃくちゃ楽をしたい。
死ぬほど楽をしたい。
それくらい意識が低いところにいます。
低すぎて楽をするための努力は惜しまないくらい。
(……自己矛盾が発生していますね)

でも、最近いろいろあって
意識が高いコミュニティに参加しております。
そして、そこで誘われたわけです。

「スパルタンレース、出ようよ!」

最初、ちょっと泥だらけになる障害物競走だと思っていたんです。
幸い、走ることを通じて体力だけは自信が出てきました。
何かを飛び越えたりするのは、小さいときから得意だった。
で、つい言っちまったわけです。

「はい」

ところが、返事をしてからちゃんと調べると、
それが自分の想像を遥かに超える大変さだった。

5キロメートル超の道のりを走る中で、
2メートル超の壁を乗り越える、
ネットを張った4メートルの壁を越える。
そんなことは当たり前で、泥水をくぐったり、
泥道をほふく前進する、50キロのボールを持つ、
俵を持つ、半ロッククライミングをする……等々。

それを知ったとき、私は素直に思いました。

「オイオイオイ、死ぬわワタシ」

そしてこのレースの参加費は高い。
完走しても賞金が出るわけでもなし。
ぶっちゃけ私の生活にまったく役立ちません。

私のポリシーとまるで逆。
死ぬほど楽したいどころか
苦しすぎて死ぬみたいなレースです。
本当、なんというものに申し込んでしまったのだろう。

はっきりいって後悔しました。
でも、一回返事して「やっぱやめます」とは言えない。
そう言うのも面倒くさくて……。

しかたなく、つらいもののために、
つらい筋トレと走り込みを続けました。
(筋トレはほとんどできなかったのですが……)

そして、いよいよレース当日。
私はあるチームメンバーとして参加しました。
他のメンバーが緊張している中、
前日に飲み会があり睡眠時間4時間の私は、
まったく緊張せずスタートを切りました。

……こうして振り返ると、自分の意識の低さが際立ちますね。

とはいえ、前半は普通に軽々クリアしていきました。
アスレチック系や壁登り系は私の得意とするところなので、
他のメンバーを助けながら、余裕で走ります。
スキーのゲレンデが舞台なので、地味にきついですが、
歩幅を小さくして疲れない登り方にも切り替えます。

問題はパワー系。私には筋力がありません。
そして、とうとうその瞬間がやってきます。
50キロの石のボールを持つ障害。

みなさん、50キロってなんでしょうか。
考えたことありますか? ありませんよね。(断定)
そこで、次のことを考えましょう。

アニメに出てくる美少女いますよね。
彼女たち、50キロいっていませんが、(偏見)
それをお姫様だっこするようなものです。

「なんだ、簡単だ」って思いましたでしょ?
でも、それは彼女たちが
お姫様だっこさせてくれるから簡単なんです。

じゃあ、彼女たちがものすんごい落ち込んでて、
膝抱えて、地面に転がっていたらどうですか?
地面から自分の胸の高さまで持ち上げるんですよ。
しかも、めちゃくちゃいじけてて、
持ち上げてもそのまんま体丸めているんです。

……なんか、つらくなってきたでしょう?

では、もっと正確に述べましょう。
地面に転がっているのは美少女ではなく、
石です。可愛くもなんともありません。
暴力的なまでに丸い石です。

持ち上げる気、なくしてきましたか?
でも、これを持ち上げて、往復10メートル歩くんです。
あ、できなかったらバーピージャンプ30回です。
ごりごりスタミナを削られます。

で、私はといえば、
そもそも女の子をお姫様だっこできたことがありません。
するチャンスがあったのか、そもそもチャンスすらなかったのか、
そこは皆様のご想像にお任せいたします。
もちろんこんな障害は初めてです。

でも、なんとか他のメンバーにアドバイスをもらい、
ボールを自分の膝元まで引き寄せます。
そして、膝にそれをのせて、立ち上がる!

立ち上がることができました。本当に。
同時に、ぐんっと石の重みが脚と腰にのしかかってきます。
今まで感じたこともない、密度の高い重量感。
その瞬間、頭の中の何かのスイッチが入った音がしました。

このスイッチを切ったら、死ぬ。

明確な言葉になったわけではありませんが、
本当にそう思いました。

このレースにどんな意味があるかとか、
どれだけこの苦行が続くのだろうとか、
そんな現実的な思考をした瞬間、
死ぬだろうとはっきり感じたのです。

50キロのボールを抱え、私は往復10メートルしました。
もうそれ以降、まともなことは考えていません。
泥だらけになってほふく前進をし、
バケツに石を自分で書き込み、往復300メートルを歩き、
自分の体重よりも重い袋をロープで持ち上げ……。
ときに失敗し、バーピージャンプを30回し、
また失敗して、バーピー、バーピー……。

気づけば、ゴールが目の前に迫っていました。
そしてメンバーで両手を挙げてゴール。

……終わった感じがありませんでした。
走り抜けた事実は認識しているし、
体はくたくたで眠くてしかたがなかった。
それでも、まだ障害があれば
走れるような気さえしていました。

ゴールしてから30分くらいして、
ようやく、徐々に自分の頭が現実に戻ってきました。
泥だらけの服をどうしようとか、
そこから宿に泊まる温泉のこととか、空腹のこととか。

そうして物理的なゴールから約一時間、
私のスパルタンレースは静かに終わりを告げました。

二日経って全身筋肉痛に苦しみながら振り返ると
あのときの私は異常でした。
50キロのボールを持ち上げるなんて、
普段の限界を超えています。
他の障害も普段からは考えられないほどきついのに
私は歯を食いしばってクリアしていました。

もう、あのときの私は
「こんなのやりたくない」とは考えていませんでした。
「やる」以外の選択肢が頭になかった。
というか、やるのが当たり前すぎて、
選択肢すら思い浮かびませんでした。
ただ「どうやってクリアするか」のために、
頭と体がフル回転していただけです。

そんな自分を自覚したとき、気づいたのです。
本当に覚悟を決めた人は強いのだな、と。

覚悟を決めた人は悩まない。
彼らの中には「やるかやらないか」という考えがありません。
やるだけ、だから全力を尽くす。
その全力はときに自身の限界を超えることもある。
そうでなければ、きっと彼らは「死ぬ」ことすらあり得るから。

彼らには「やる気」すら必要ないのでしょう。
そんなものがなくても、彼らは行動する。
淡々と、誰に何を言われようとも、やる。
それこそが彼らの「強さ」なのだと思います。

意識が高い人たちがときに揶揄されることを私は知っています。
口先ばかりで行動しない人たちも私は知っています。

でも、ときに口では何も言わなくても淡々とやる人も知っています。
その人は目立つことがなくても、強い。
そして、意識も高く淡々と続ける人もいるのです。

そして、今回のレースでその強さの源を知ったように思うのです。
「死」と相対するような覚悟。
物理的な死ではなくても、
やらなければ自身のアイデンティティが死ぬ。
彼らの中にはそれがあるように見えました。

そういう強さには、私は素直に憧れます。
そして、それを知りたいがために
私はまたスパルタンレースに申し込みをしてしまったのです。

……さあ、みなさんもスパルタンしませんか!?
(犠牲者を増やしたい)