徒然マンガ録『進撃の巨人』 ~人間の揺れ動きの描かれ方がリアルすぎてエグい

私、意外にもリアルタイムでちゃんと追っているマンガはワンピースくらいしかありませんでした。進撃の巨人は一度、第一期のアニメを途中まで観て、エレンが大岩を運ぶ作戦を立案したくらいのところで止まってしまったのです。なんとなくドラゴンボールみたいな引き延ばし感を無性に感じてしまったので。(今思えばそんなことはなかったのだけれど)

でも、ある時、なぜだか急にアニメを観直して、それこそ睡眠時間を削る勢いで第3期までを一気に見てしまい、ちょうどそのあたりで「進撃の巨人、完結!」というTwitterの話題を見て、それで単行本を全部買ってしまった次第です。

大人買い。いやあ、大人ってこういうときいいですよね! 本とかマンガを一気に買い込める!

さて、私が単行本を読み始めたあたりで、アニメではマーレ編に突入し、サシャや総統が死んでしまい、さらにエレンもそのテロリストたちに合流する、という展開になっていました。もはや絶望しかない、どうやっても救いはないということをまざまざを見せつけられている気分でした。

でも、単行本で結末まで見れて本当に良かった。どうあがいても絶望という状況から、ちゃんと救いがある終わり方になって本当に良かった――と思ったら、単行本で加筆されたらしいラスト4ページでまた絶望に落とされたんですが。

さて、前置きが長くなってしまった。感想でございます。

まず、結論から書いてしまうと、「諌山先生、人間の極限状態での揺れ動きを書くのが本当にうまいなあ」です。そして、「絵が下手なのに(失礼)、その揺れ動きの表現は抜群にうまい」。

特にそこを思わせてくれるのはジャン。彼も104期訓練兵のTOP10に入る実力者ですから、他の人たちよりは強く、生存率は高いはずです。そして、状況判断能力も高く、それゆえ助かるシーンも多くあります。しかし、そもそも彼は安全で良い暮らしを求め、危険な巨人との戦いから最も遠い憲兵団への入団を目標としていました。

そんな彼が、ウォールローゼの戦いを経て、憲兵団への入団の選択を捨て、巨人との最前線となる調査兵団を選ぶシーンは胸打たれました。頭では「自分は憲兵団に行くんだ」と思っている。でも、ついこの間の戦いに斃れた仲間を思い、震えながらも調査兵団に入る道を選ぶのです。彼自身、「どうしてこうしちまったんだ」と後悔も抱えながら。

こういう、矛盾を抱えながらの選択。極限状態で多くの人が味わったことがあるのではないでしょうか。重大な局面で、二つの中から選択をしなければならないとき。どちらを選んでも、苦しむことになるのはわかっています。でも、決断しないことも許されない。だから、どちらかを選ぶ。

でも、その時にヒーローマンガのようにかっこよく「俺は後悔しない!」なんて言える人間はそう多くはないはずです。多くの人は「どうしてこっちを選んでしまったんだ」と切り捨てた方の選択のことも思う。

それが人間の弱さ。そして、同時に強さだと思うのです。「何かを変えることができる者は、何かを捨てられる者」とエルヴィンやアルミンが何度も噛みしめることです。

この「重大な選択」という事象は、進撃の巨人で何度も描かれます。訓練兵が入る兵団を選ぶシーン、女型の巨人に追われているときのエレン、絶望的な状況で特攻作戦を立案するエルヴィン、二人のどちらかを選ばなければならないリヴァイ――。どれもが「誤った選択をすれば、自分、あるいはもっと多くの人を死なせてしまう」という結果につながりかねない。

もちろん、この物語はきれいな終わりに向かって進むので、全員が死ぬことにはならないのですが、それでもIFがいくらでも想像できるくらい、それぞれの決断は重く、困難です。そして、実際にこの物語が完結したあとでも、犠牲となった人々は数えきれません。

冷静に冷酷な判断を下せるリヴァイでさえ、すべてが終わったあと、亡くなった仲間たちを見て涙を流す。彼は物理的にも精神的にも本当に強い人間です。目的のためなら部下を殺すことも躊躇しない。でも、そんな彼でも選ばなかったことへの後悔を忘れたわけではない。

そうして切り捨てた選択の可能性を思うからこそ、自分が選んだことに対して真剣に命を懸けられる。それが、この物語で描かれる弱さと強さの表裏なのだと思います。

あと、もうひとつ好きなのが「かっこい悪いところをリアルに描くなあ」ということです。これはほぼエレン。彼が諌山先生の最大の被害者なのは間違いない。(いじられ役として)

エレンが記憶を呼び起こしながら、「進撃の巨人」と呟いた言葉とポーズをハンジが純粋無垢に問い詰めるあたり、ひどい(誉め言葉) 確かにやりますよ、十五歳の男子であれば。マンガ的にかっこいい描き方をした直後に、それをいきなりリアル目線で「これやばいね」と見せつける諌山先生は鬼である。

そして、ラストのエレンはもう最高にかっこ悪い。ミカサが他の男とくっつくことを嫌がって駄々をこねた挙句「俺を想って最低十年引きずってほしい」っておまえ……。 ミカサはそれくらい引きずりそうではあるけれど、これはリアルで振られた男が悔し紛れに口にするアレじゃないか。友人が聞いててドン引きするアレじゃないか。実際アルミンがドン引きしてる。

でも、これもネタ要素ではあるものの、「進撃の巨人」がファンタジー世界をベースにしながら、その実、人間の動きをリアルに描いている証左だと感じました。

とにかく、進撃の巨人がリアルな人間をうまく描いているのは本当に良かった。最後にあれだけ大きな出来事になっていたとしても、そういう心の動きを描くことを貫いたのは、感動です。