徒然映画録『シン・エヴァンゲリオン』 ~ 私はパンケーキを食べたのか、石を食べたのか?

 ストレートに感想だけです。エヴァと自分の付き合いなぞ語らずとも、楽しい感想になりましたので。
 結論から書くと、やっぱりやらかしてくれたので嬉しかったです。しかも今までのエヴァとやらかし方が違っていてすごい、常人の精神ではできない。なのにエヴァなので納得させられる強さ。脱帽です。

 この映画を観る前、Twitterで「観客が求めていたのはパンケーキなのに、今までのエヴァって石食わされたり何だったりで超焦らされたねん」

https://twitter.com/caopig/status/1372209200516845578

的なものを見て、私はむしろ「私が食べたいのはパンケーキじゃなくて石なんじゃい」というツイートをしました。

https://twitter.com/bantenmaru/status/1372893225820688387

 ここでいうパンケーキとは、ストーリーだったり物語の伏線の回収だったり登場人物たちの行く末のことです。そして石とは――石です。物語関係なく観客に投げつけられる石です。すごく痛いです。もちろん物理的なものではありませんが、悪意に近いそれです。
 テレビ版のラスト2回はものすごく石でした。旧劇場版は多少パンケーキしてたけど、基本石です。新劇場版の序、破はパンケーキですね。Qは石の硬さを持つパンケーキ……って石じゃん。
 そして今回の『シン・エヴァンゲリオン』。すごい、石とパンケーキがきっかり半分。そのくせ超合体していて分けることができない!

 まず、本当に驚いたのですが、きちんとストーリーが終わりました。しかも、今までの多くの謎をほとんど回収してのハッピーエンド。Qでもはやどうしようもないと思っていた世界がちゃんとどうにかなりました。

 そもそも人類がヴィレ以外にいたことに驚きました。Qでトウジの制服だけが出てくるから、どう考えても死んでると思わされていましたよ。この驚きは『ゼルダの伝説 Breath of the Wild』で人が住む村があると知った時に近い。世界は全滅、主要登場人物だけが生き残ってて、と思い込むのは私の性癖なんでしょうか。でも、旧劇場版のラストもアスカとシンジしか生き残っていないから、そう思わされても仕方ないよね!

 そこからしばらくは仮初の平穏が訪れます。アヤナミは村に馴染むのに、シンジだけはずーっと心を閉ざしたまま。でも、トウジとケンスケが無理にシンジを立ち上がらせようとしないのは好感を持てました。対照的にアスカがシンジを無理矢理生かそうとするのも面白かった。なにより、彼女が旧劇場版までのテーマをわずか十秒くらいで全部ぶちまけちゃうんですよね。「ここで言っちゃって大丈夫か? このあとどうするんだ?」って、かなりハラハラしました。
 そして、シンジが立ち直るきっかけになったのがアヤナミなのもよかった。「あなたが好きだから」というのは、理屈じゃないからこそ納得感がある言葉です。そして、生まれたてのアヤナミから出る言葉だから、より力強いんでしょうね。

 さて、意図的に中盤の言及を飛ばし、最後のゲンドウとの戦い。ここはあんまり好きじゃないかもしれない。
 Qの時から薄々わかっていましたが、ゲンドウがラスボスになることの気持ち悪さはありました。もちろん、エヴァンゲリオンのテーマの一つに「父と子」があるのはわかっているのですが、ゲンドウをラスボスに据えてしまうと、それが一番大きなテーマに見えてしまいがちです。そして、父と子の物語なんて『スターウォーズ』を筆頭にこの世に腐るほどありふれている。
 実際、途中までは親子喧嘩のような演出になっていて、それまでのエヴァの戦いの薄気味悪さとは違う感覚なんですよね。言ってしまえばチープになっている。その間に語られるゲンドウの一人語りも旧劇場版の焼き直しであり、むしろシンジの問題が序盤で解決されてしまったためにそれよりも薄っぺらく見えてしまうのです。

 でも、その戦いに決着がつくあたりで急に様相が変わります。シンジがみんなを見送るシーンですね。今まで戦っていた父親を見送り、今までの主要登場人物を見送り、自分も見送られ、最後にマリと新しい日常を歩む――マリ!?!?
 ……と、終盤が石でありながら、パンケーキと超合体しているところです。

 ゲンドウとの戦いから「マイナス宇宙」の設定をいいことに、急激にメタ描写が増えます。これはシンジの記憶でありながら、同時に我々観客の記憶であり、「さらば、すべてのエヴァンゲリオン」というコピー通り、我々観客をエヴァンゲリオンから卒業させようという試みだろうと解釈しています。
 劇中ではオーバーテクノロジーのオンパレードなのに突然現れる現代的な道具の数々。映画のようなセット、シャッター、撮影機材やPS4のコントローラー。そして、シンジが主要な登場人物を見送るのは、我々がその登場人物と別れることでもあります。
 特に顕著なのがアスカです。旧劇場版ではシンジと唯一残った人物であり、シンジへの好意と異様な執着心を持っていたのに、今回は好き「だった」と好意も過去形になっている。同様にレイも14年後の姿を見せておきながら、かなりあっさり別れてしまうんですよね。
 そして、この映画の最後にシンジと一緒にいるのはマリであり、少なくとも旧劇場版までのエヴァは過去のものになった。おまけにシンジの声は変わっている(神木くん?)し、最後のシーンは実写。我々がシンジくんに見送られたと思っていいでしょう。

 この演出をやらかしと言わずに何と言おうか。いや、なんか物語はハッピーエンドに見えるけど、意味不明すぎるだろう! こういうメタ描写、ギャグでも扱いが難しいのに、こういうシリアスな物語に入れるもっと危険と相場が決まっています。それなのに最終作でそれをぶち込むってなんなんですかね。よっぽどエヴァンゲリオンと別れたい庵野監督の石のような意志でしょうか、ははっ……笑えない。
 しかも、ストーリーがとても健全に進んでいるのにこういう演出を入れる蛮勇。歪なのにこの映画と切り離すこともできない。これ、まともな精神では到底できる技ではありません。技っていうか業(ごう)。

 こうして物語は終わるのですが、じゃあ結局テーマはなんなんでしょうね。

 さっきも書いた通り「父と子」は見送りによって過去のものになりましたし、「人と人との触れ合い」もアスカが言っちゃったので過去のものになりました。「贖罪」はQのテーマなのでやっぱり違うし。
 と、ここで、意図的に言及を省いた部分がありました。最初にこの感想を書いたとき「ここはバトルしかしてない」と飛ばそうとしていた部分です。しかし、感想書いて転寝した後、「あ、すごく大事なこと言ってた」と思い出したのです。

 Qでシンジと再会したアスカが二人を仕切るガラスを殴るシーン。今作ではこの行動の理由をアスカが序盤で問いかけ、最終決戦前にシンジが答えていました。そもそもQのあのシーンに再び触れるとは思いませんでしたが、綺麗に回収されたのにもびっくりです。今までのエヴァって、そんなことやらなかったでしょうが! まあ、それはさておき。
 シンジの答えは「選ばなかったから。救うことも、殺すことも」でした。つまり、覚悟を持って決断することの重さをシンジが認識したことを示す言葉です。
 確かに、旧劇場版まではシンジは色々な状況に流され、それこそ運命に翻弄されるひとでした。彼なりに頑張って選んでいるんでしょうが、この世界において彼の選択などささやかな抵抗に過ぎず、唯一彼の選択が重要になるのはサードインパクト後の世界の行く末だけ。それもほとんど流され切った後に残された二つから選んだだけで。

 でもシン・エヴァでは、アナザー・インパクトの前に彼が選択することの重さを認識できた。これはすごいことだと思います。TV版、旧劇場版では「他者と触れ合う痛みを受け入れるか」「みんなでひとつになるか」しか選択肢がない状況まで追い込まれていましたが、今回は前者に寄りつつもシンジが能動的に選んでいる。
「能動的に選択をする」といえば、序盤のアヤナミですね。名前の件に始まり、彼女は「自分が何をしたいか」を何度も問いかけられていました。やがて彼女も自身で選択をするようになる。アヤナミの行動原理や感情もあらかじめデザインされたものだとアスカに伝えられても、なお自分で「シンジを好き」と気持ちの選択をする。

 つまり、シン・エヴァにおいては「選択」がとても重要なテーマであり、だからこそ急に「人の想い」とか「ネオン・ジェネシス」とか、くっさー!なものが登場するのでしょうね。ガイウスの槍は、ロンギヌスやカシウスの槍ではない第三の選択肢であり、流された先の選択肢ではなく、弁証法でいうところのアウフヘーベンに近い、自らが作った答えなのでしょう。
 その結果、今までのエヴァ機体が爆発しちゃうんだけど、すごく雑に。オイオイ。「もういいかげん解き放たれましょうよ、みんな自分の選択をしましょうよ」という庵野監督のぼやきが聞こえそうだ。まあ、ぜんぶ私の推測ですが。

 ちょうど私もここ二年くらい「運命」とか「家族」に悩まされたことがありまして、生まれの関係で。自分のバックボーンはどうやったって変えられませんから。でも、結局その先どう生きるかは自身の「選択」しかないんだと割り切ることができました。有利な運命は使っても使わなくてもいい、不利な運命から逃げても逃げなくてもいい。ただ、「選択」をしなければ、運命に悩むということすらなくなってしまうよね、という。
 そういう気持ちと、シンジの台詞。それが重なったせいで「選択」が重要なのかな、と思った次第です。

 あれこれ書きましたが、とにかく完結してよかった。私もエヴァの呪縛から解き放たれました。ストーリーはこれで満足です。いや、粗いところはありましたけどね。シンジが序盤で立ち直ったところとか、レイの旅立ちとか、強引なところが目についたのは事実です。しかし、もうエヴァは完結しただけでエライ! めちゃくちゃ贔屓して評価します。そして、ちゃんと終盤にアレが入ってて嬉しかったです。

 石!