ゲーム感想

徒然ゲーム録『Doki Doki Literature Club』 ~人に好かれること

私はゲームが好きですが、あまりやったことがないジャンルがあります。
それは恋愛ゲーム。
最後にやったのはどれくらい前のことになるんでしょう。

中学生の時にプレイしたパソコンのフリーゲーム、
「CROSS ROAD」という名前でしたか、
これが初めての恋愛ゲームで、思い出深いものでした。
そう言いながら、キャラもストーリーも全部忘れているんですが、
妙に甘酸っぱい気持ちになったことだけはずっと覚えています。

それから十数年たち、ふとしたきっかけで
またもや恋愛ゲームをやることになるとは思いませんでした。
その名も「Doki Doki Literature Club」、通称DDLC。
英語版しかありませんが、英語の勉強がてらプレイしたのです。

……

高校生、でも青春とは程遠い帰宅部の主人公が、
幼馴染のサヨリに連れられて入った文学部。
そこで部長のモニカや、部員のナツキ、ユリとともに、
来たる文化祭に向けて楽しく部活動をする……というストーリーです。

恋愛ゲームによくあることですが、
サヨリ、モニカ、ナツキ、ユリの四人は美少女で主人公もウハウハ。
特に部長のモニカと仲良くなりたいなー、と思いながら、
楽しい日々を過ごしていくのです。

ScreenClip4

でも、主人公はなんだかんだ幼馴染のサヨリを放っておけず、
彼女の面倒を見るうち、彼女の秘密を知ることになります。
常に元気いっぱいに見えた彼女は実は鬱を患っており、
本当は何もかもをどうでもいいと思っていたこと。

それでも主人公は彼女を支え続けると決め、
サヨリはその主人公の思いに涙しながら応えると誓います。
目前に迫った文化祭を精一杯成功させようと思うのです。

そして、二人はただの幼馴染ではない、
新しい関係となって、明るい日々を過ごすようになるのです。

……

……

……

サヨリが首を吊って死ぬまでは。

そして、彼女の死からこのゲームの歯車が壊れ始めます。
二週目がプレイできるのですが、
過去のセーブデータはすべて抹消され、
サヨリの存在がなかったことにされている。
そして、その事象の書き換えを行ったのはどうやらモニカらしい……。

さらに二週目を進めていくとゲーム自体がバグるような挙動が起きます。
フォントが急に変わったり、背景がトんだり、
変な選択肢を選ぶと狂気に満ちた文字や絵が出てきたり。
タイトル画面までバグっている……。

ScreenClip2

そして、またひとり、ヒロインが死にます。
ユリは主人公を好きすぎてヤンデレになるあまり、
自分をナイフで突き刺して死ぬ。
その亡骸を見たナツキも嘔吐し、世界から消えてしまう。

最後に残るのは、モニカ。

モニカだけ。

…「Just Monika.」

モニカはこのゲームの事象を書き換える力を持った人物でした。
すべてを思い通りにできないにせよ、
少なくとも彼女以外の三人をこのゲームから抹消できる力がある。
そして、とうとうこのゲーム世界を彼女と主人公の二人だけしかいない、
虚無の世界へと作り変えてしまうのです。

このゲーム世界で二人きりになったとき、モニカは真実を打ち明けます。
主人公のことを、いや「プレイヤー」のことを自分は好きなのに、
プレイヤーがモニカと仲良くなるチャンスがこのゲームにはなかった。

そう、このゲームをプレイするとすぐにわかるのですが、
四人の美少女のうち、モニカを攻略対象とすることができないのです。
どうやってもモニカに近づく選択肢が現れないのです。

モニカは言います。
だから、自分は他の三人を消し去り、
プレイヤーとたった二人きりになりたかった。
このゲーム世界で、ずっと、二人でいたかった――と。

そして画面でただじっと向き合いながらモニカは語り続けます。
自分がどんなにプレイヤーを思っていたかということ、
自分がツイッターアカウントを持っていること、
プレイヤーと外の世界でデートをしたいこと、
三人の裏の性格を形作った原因について……それ以外にも色々。

ScreenClip

しかし、この二人きりの会話で、
いや、実際にはモニカのひとり語りに過ぎないのですが、
その中で彼女は致命的な一言を漏らすのです。
「このゲームが保管されているフォルダから
『Monika.chr』を消すことはないよね?」

それはプレイヤーにとっての究極の選択肢になります。
四人のうち、三人がいなくなった世界。
その原因であるモニカをこのゲームから消し去るのか。
それともモニカとずっと二人きりでこのゲームにとどまるのか。

そうして、プレイヤーの取る行動が、
文字通りこのゲームそのものの結末へとつながることになります。

……

さて、ここまでの盛大なネタバレは今回の話の前段に過ぎません。
そして、私は久しぶりに、本当に久しぶりに
ゲームキャラを嫌いになってしまいました。

誰かって? たった一人です。

…Just Monika.

三人目のヒロインを彼女が「消した」瞬間、
私は彼女を生理的に嫌いだとはっきりと感じました。
たとえ彼女がゲームで攻略されることのない、
不幸な運命を抱えているということを知っても。
彼女の愛は身勝手で、その愛のために三人を消す邪悪さがある。
だから、私は彼女のキャラデータを「消し」ました。

そして、彼女は私の行動に絶望しながらも、
自分の行動が間違っていたと悟り、再度三人を復活させます。
今度は自分がゲームの中から消えることで。

しかし、結局は……再度サヨリが主人公とくっつこうとし、
その時点でモニカが――いないはずのモニカがゲームに干渉し、
このゲームをプレイ不可にすることで結末を迎えます。
「このゲームではみんなが幸せになることは、決してできない」と。

じゃあ、モニカが「間違っていた」と悟ったことはなんだったのか?
やっぱり自分の身勝手さで、
平和な恋愛ゲームの世界を壊しているじゃないか!
ラストの手紙を見ても、その身勝手さに対する怒りは消えませんでした。

モニカのこの行動から改めて振り返ると、
私のタイプじゃなくても好きになるポイントが他の三人にはありました。

サヨリは明るく振る舞うことで主人公を元気づけようと、
ナツキはツンデレながらも主人公をなんだかんだ気にかけて、
ユリは――まあヤンデレだけど本当に本が好きで。
私は彼女たちといろんな体験をし、
彼女たちのパーソナリティに触れていました。

ScreenClip3

でも、モニカは?
私はこのゲームでモニカとどんな体験をしたのでしょう?
一緒の出来事を過ごすわけでもなく、私に怖い思いをさせて、
急に二人だけの世界にさせて、延々と語り続けて。

私がモニカの人柄に触れることは、
このゲームの中ではとうとうできなかった。
それなのに好き、好きだと言われ続けて、束縛されて。

私のことを何も知らないくせに。
私に何も彼女のことを見せてくれないくせに。
それなのに、どうして私が彼女のことを好きになれるのでしょう。

恋愛ゲームは、というか普通の恋愛もですが、
ただどちらかが「好き」ではどうにもなりません。
好きになることに理由はないけれど、
好かれる方がその人とくっつくにはある程度の理由がいると思います。

だから、恋愛ゲームは主人公がモテモテという設定だとしても、
ヒロインと色々な体験をして、同じ感情を持てるように設計されている。
現実の恋愛もデートを重ねてお互いの気持ちを知る。

けれど、モニカにはとうとうそれがありませんでした。
それはこのゲームの製作者が意図したことなのかもしれません。
そうでなければ二人きりの世界で、
モニカが延々と喋り続けるイベントなんて作るはずがないのです。

でも、モニカがしゃべるのは所詮彼女の妄想であり、
私との体験ではありません。
だから、私はモニカのことを理解できず、
彼女を嫌いなままでこのゲームを終えることになりました。

非常にもやもやします。
このゲームは恋愛ゲームに見せかけて、
実はホラーゲームに見せかけた、その先の「なにか」です。

ネットで真EDのネタバレを見ても、やっぱりモニカを好きにはなれない。
でも、それはそれでこのゲームの真髄なのかもしれません。
私に今一度「恋愛」がどのようにして成立するのか、
こうやって書き連ねることであらためて考えることができるのだから。

モニカは私のことを好きだった。
でも、私は彼女のことを決して好きにはなれない。
私にとってこれは恋愛ではないのです。
でも、たとえプログラムの運命だったとしても、
モニカにとってはこれは「恋愛」にほかならない。

「なにか」というのは、やっぱり「物語」なのでしょうか。
私にはわかりません。