映画感想

映画感想「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」~問題作、でも私の中ではナンバーワン、なぜなら。

今回は私激推しの作品の感想です。それが細田守監督の『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』。

この作品、世間の評価は良くない……というか、ONE PIECE映画シリーズの中で黒歴史扱いすらされています。しかし、私の中ではこの作品が、ONE PIECE映画シリーズどころか、映画の中でゆるぎなきナンバーワンです。

なぜそこまで私が大好きなのか? 今回はその理由を述べていきます。

それでは、今回も心の旅へ出かけましょう!

原作漫画と違いすぎる雰囲気がイカン。

導入のあらすじはこんな感じです。

「海賊王に俺はなる!」

そんな夢を掲げて海へ出た青年、麦わらのルフィ。冒険の中で出会った仲間たちと共に航海をしているところ、偶然にもメッセージボトルを拾いました。

ボトルの中にはこんなメッセージの書かれた紙が。

「もし君が、海賊の中の海賊の中の海賊の中の海賊ならば、信頼する仲間をつれてこの島に来るがいい」

とても不穏な言葉が書かれていますが、ルフィはどんな試練だろうが仲間となら乗り越えられると言い切り、その試練の待つ「オマツリ島」へ向かうことになるのでした。

さて、ONE PIECEの映画は数多く公開されており、最近では原作者の尾田栄一郎さんの手がけた作品が大ヒット、人気コンテンツとしての不動の地位を確立しています。

ところが、この「オマツリ男爵」の興行成績は振るいませんでした。それどころか、ONE PIECEというネームバリューから考えれば大コケ。

なぜなら、この映画は原作漫画と雰囲気が大きく異なるからです。特に「このキャラは絶対こんな事言わない」とファンが感じる箇所が多いはずです。

特につらいのが、仲間たちの描写。顕著なのはサンジでしょう。彼は「腹を空かしているやつには食わせる」という信念を持つ男です。自分たちと敵対する海賊でも、空腹に苦しんでいるならお金を求めることなく食事を差し出す男です。

マジでこのシーンカッコ良すぎる!

しかし、この映画では、道中の試練で仲違いしたゾロに対し、サンジが食事を出すことを拒否します。

いやいや、お前はそんな男じゃないだろ!

ONE PIECEという漫画は、登場人物たちの信念を丁寧に描いており、信念と信念のぶつかり合いが熱い作品なのです。それはサンジにしたって同じ。だから彼はカッコいいはずなのに!

犬猿の仲のゾロと仲違いしたからといって、サンジが信念を曲げるなんてファンからしたら許されないでしょう。

また、ラストの戦いが怖いです。半分ホラーです。

敵は人間ではなく、言葉にしづらい太い物体です。それがルフィの仲間たちを取り込んで養分として吸収します。その仲間たちの表情が苦悶に満ちていて、原作と違う方向で嫌な雰囲気です。

確かに原作でもバトルで重傷を負うことはあります。でも、この映画での痛みは陰湿な痛みという感じで、ずーっとつらい感じです。それにルフィもオマツリ男爵とバトルしている雰囲気もない。

他にも「あれっ?」と感じる箇所が多く、そんなところがONE PIECEファンにとっては我慢できないのでしょう。だからレビューで叩かれ、そして興行成績が低く終わる結果になったと思います。

私も原作コミックスを全巻集めていますので、ファンの気持ちはわかるし、ヒットしなかったことも納得できます。

それでもね、この作品本当に好きなんですよ。

ルフィという男の描き方、その一点だけで大好き

私がこの映画を好きな理由は、ルフィという男の描き方、ただその一点です。

ONE PIECEのルフィはめちゃくちゃ困ったちゃんです。くだらないことが大好きでおちゃらけてばっかり、後先考えずに飛び出してまわりに迷惑をかけるし、肉ばっか食って食費はやたらかかる。

しかし、彼は船長としての器と覚悟の大きさを同時に持ち合わせた男です。仲間はどんなことがあっても必ず救うし、そのために自分が強くなりたいと心から思う。

自分は仲間に助けてもらえないと生きられないという自信があるからです。アーロンに真剣に叫ぶこのセリフは、ものすごい重みがあります

仲間は大事だ。決して失いたくない。そして、俺は海賊王になる。

これはルフィの生き方であり、確固たるものです。一人では決して海賊王になれないと自覚するからこそ、仲間を心の底から大事にする。これほど仲間を大事にする男は、ONE PIECE世界ではごくごく稀です。

でも、考えてみてください。

もし、ルフィが仲間をすべて失ったら? 彼は海賊王になる夢を諦めるのでしょうか?

この問いは、少なくとも今までの原作漫画では描かれていません。これからも描かれることはないと思います。けれど、ルフィという男の根源を突き詰めると、この問いはとても重いと思いませんか?

つまり、ルフィにとって本当の本当に大事なのは何か?ということです。仲間なのか? 海賊王という夢なのか? あなたはどちらだと思いますか?

そして、細田守監督はこの問いに対し、ひとつの答えを出しました。

「ルフィは海賊王になる夢を決して諦めず、どんなことがあっても前に進む男だ」と。

たとえ他のキャラクターの描写がおかしくても、ラストバトルが半分ホラーでも、いいんです。ONE PIECEの絶対的主人公であるルフィに対し、この究極の問いを突きつけ、自身でその答えを提示する。

これが、私がこの作品を本当に好きな理由です。そして、細田守監督が出した答えは真を突いていると思います。

この映画制作中の時期、漫画原作ではルフィたちの愛船が壊れており、そのまま旅を続けることができない、という事実が明らかになっていました。

みんな、その船が好きでした。楽しいときも危ないときも、その船と一緒に乗り越えてきました。その船も彼らにはかけがえのない仲間でした。しかし、もうどうやっても一緒に旅をすることはかなわない。

そして、ルフィは決断します。自分たちは新しい船を手に入れて前に進む、と。仲間のために夢を諦めるという選択をしない。

つらいシーン、でも彼の信念が感じられます。

この決断をするのが、ルフィという男なんです。その原作の判断は、この映画でも見事に反映されています。

一方、仲間のために夢を諦めるという選択をしたのが、オマツリ男爵です。

彼も海賊で大きな夢があったはずです。けれど、不運に見舞われて彼以外の仲間はみんな死んでしまった。彼も本当に仲間を大事にしていました。家族以上だったのでしょう。

「だから」彼は仲間を生き返らせる道を選んだ。ラストの大きな謎の太い物体は、仲間たちを生き返らせる手段でした。でも、仲間を生き続けさせるために、オマツリ男爵は島から離れられなくなりました。彼は自分の夢を諦めたのです。

ルフィとオマツリ男爵。どちらが幸せな生き方か、私には断じられません。それぞれに本当の本当に大事にしたいものがある。

けれど、ラストのオマツリ男爵と死んだはずの仲間たちの言葉は、オマツリ男爵の中にある、本当に大事なものを垣間見せてくれます。それはきっと「仲間」ではなく……ここでぽろっと涙が出てしまいそうです。

たぶん私はオマツリ男爵に自分を重ね合わせているのでしょう。失ったものを振り返るばかりで前に進む勇気が出ない。本当に大事なものは何か、頭のどこかで理解している。でも、自分は立ち止まったまま――。

そんな弱さが、オマツリ男爵を通じて自分のことのように思うのです。そして、私はルフィを羨ましく思う。自分の信念にまっすぐ、苦しくても前へ進める強さに。

そういうことを感じられるから、やっぱりこの映画が私のオールタイム・ベストです。評判が悪かろうが興行成績がコケようが、好きなものは好きなんです。