アニメ感想

徒然アニメ録『SPY×FAMILY』〜偽だとしても理想の家族になるのか?

「理想の家族なんて、もうこの世の中にはないよ」と思っていませんか? でも、あなたの中にだって「理想の家族」があるのかもしれません。

今回は2022年4月から放送していた『SPY×FAMILY』の感想記事です。実はTwitterではほぼ言及していませんでしたが、『パリピ孔明』と併せてリアルタイムで追っていました。

この『SPY×FAMILY』という作品は、偽の家族がテーマのドタバタコメディ。という皮を被って「家族」という難しいテーマにひとつの強い回答を投げかけた、おったまげな作品だと感動してます。

現代では「理想の家族なんてない」なんて言われるかもだけど

輪るピングドラムでも描かれていましたが、「家族」は絶対的な善ではなく、時に自身を縛る枷のようにもなりえます。「あなたは母親なんだから」「あなたは父親なんだから」「あなたは子どもなんだから」。正直、周囲にこう言われる時に嬉しいことなんてありません。そう言われるだけならまだいいですが、悲しいことに愛や信頼がない家族というのも、世の中には一定の数いるようです。

しかし、この物語では面白いことに、まったく関わりがなかった三人がお互いの都合のためだけに家族を構成することになります。当初、そこには愛や信頼などというものはありませんでした。ただ面白いのは、三人が努めて「普通の家族」を演じようとすることです。それもお互いの都合のために、という動機ではありますが、ロイドは良き父親「らしく」、ヨルは良き母親「らしく」、アーニャは良き子ども「らしく」振る舞おうとします。ただ、ロイドはある程度完璧超人に近いところはあるものの、ヨルやアーニャは元々がちょっと変わっているので、すれ違いが起きて、喜劇の展開になっていくわけです。このすれ違いがこの物語の笑えるポイントの一つです。

さて、先ほど「らしく」と書きました。でも、じゃあ実際に「良き父親」とはなんでしょう? 「良き母親」「良き子ども」とは?

そんな問いを投げたら、現代では「良き家族自体が幻想だ」と返ってくることが多いことでしょうし、実際それが価値観として成立しつつあるのだと思います。女性は家にいて子どもを産んで家庭を守るもの、というのは確かに古い価値観になりつつあります。男性が料理を作ってもいいし、子育てをしてもいい。女性がバリバリ稼いできてもいい。だからこれという固定概念的な家族なんてないんだ、と。

なぜアニメに「理想の家族」を見ている?

でも、ここであえて反対のことを考えてみます。だったら、なぜ私はこの「SPY×FAMILY」におけるこの三人を、ある種の「理想」的な家族だと考えているのか? 私だって男尊女卑的な家族形態が理想だと今は思っていないのに、この物語の三人に喝采を送っているのはなぜなのか?

それは、私の中に何かしらの「理想的な、良き家族」像が存在しているからだ、と私は考えます。そこでもう一度戻ります。「良き父親、母親、子ども」ってなんでしょうか?

まず、今の時点での私の結論を書いてしまいます。

リーダーシップを取り、時に厳しく、しかし最終的に家族を守れるのが父親。優しくて、様々なことをふわっと受け止めて、支えていくのが母親。そんな父と母に愛され、父と母を愛するのが子ども。そして、家族はそれぞれに愛と信頼を置いている。

と、こう書くと完全に時代錯誤的な感じだと思われるかもしれません。でも、あくまでこれは「役割」の話です。父親の役割を女性が担ってもいい、母親の役割を男性が担ってもいい、とそう思います。現に「まどマギ」はそういう家族の描かれ方です。

あるいは、それぞれの役割が交差していてもいい。現に、本作のヨルはロイドよりも純粋なパワーがある描写であり、アーニャの危機ではヨルの方が助ける機会が多いです。ロイドの方が料理をして家族を支える描写もあります。

しかし、大事な時にはロイドがリーダーシップを取り、ヨルが支え、アーニャが二人を繋ぎとめる。そう描かれることが多いと思います。そして、当初は人をまったく信頼していなかったロイドが二人にそれぞれ信頼を置き始めているというのが、やっぱり印象的でした。

9話でロイドがヨルに話します。「普通の家族だって、少なからず演じているのかもしれない」と。この物語においても、やはり何かしら理想の家族像があり、色々な人たちはその理想の家族像に近づこうと演じているのです。まったく演じないありのままの自分で留まるのではなく、理想に近づこうと努力する人たちのその姿はやっぱりどこか美しく、「良き家族なんて幻想だ」と言い捨てるのは何かが違うと私は思うのです。

この現代で「理想の家族」像を投げかけてきたこと自体に脱帽

上に書いた、私の理想の家族論も、当然私の価値観の変化によって変わるものです。しかし、そうした理想があると信じて演じることは、相手を信頼してこその愛の形の一つなのかもしれません。

私も度々家族というのをテーマに物語を書いたことがありましたが、「理想の家族」という問いには明確な回答を避けてきました。でも、この作品があのサラッとしたテイストで提示してくることに本当に驚きです。2期が10月から始まるというので、これも楽しみに続編を待っております!